2014年5月27日火曜日

30<第3章 レクイエムへ至る25年> 壮大なスペース・ファンタジー~造形作家・新宮普さんとの出会い 2~

新宮さんとの仕事の極めつけは、やはり野外で行われた壮大でファンタジックなショーだろう。「たそがれシアター“キッピスと仲間たち”」と名付けられたそのショーは、1994年の528日に、兵庫県三田市にある青野ダムサイト公園で行われた。
新宮さんが企画・構成・演出を手がけたものだ。
私は作曲と音楽監督を担当し、主にシンセサイザーとコンピュータで20曲ほど作曲した。

舞台となる公園全体が新宮さんの作品でもある。人工湖の湖岸に作られたその公園のシンボルは「水の庭」だ。円形のごく浅いプールの中央にステンレス製で水を変幻自在に吹き出しながら動く「水の木」という作品があり、少し離れた場所には風で動く同じくステンレス製の「星の立像」という作品がある。作品の背景には湖面が水をたたえ、その奥には三田のなだらかな山々が見える。

主人公は宇宙人キッピス(フィンランド語で乾杯の意味)たち。彼らは地球に舞い降り、人間や地球上の生き物、音楽、人類が想像した機械文明などに触れる。そして宇宙へ還る直前に人間たちを招待し、「水の木」の周りでパーティーを開催するという設定でショーは進行する。
新たに風で動く装置も加えられ、人間が動かすたくさんの風変わりなオブジェが登場する。色彩豊かで奇抜なアイデアのそれらすべてが新宮さんの作品なのだ。
オブジェたちが音楽に合わせて行進したり踊ったりする。巨大な哲学者が登場して、かけがえのない生命を育む地球の大切さを再認識するように人間たちに語りかける。最後には宇宙船まで登場する大がかりなものだ。
地元の高校生やジャズバンド、和太鼓のグループやフルーティストの水越さんも出演し、音響・照明、装置、舞台監督など多くのスタッフが必要になる。

本番の半年以上前から準備を始め、新宮さんの壮大なイメージの実現に向けて、みんなが力を合わせた。ただ新宮さんの構想は関係スタッフの想像をはるかに超えている部分が多く、付いていくのが大変な面もある。最初の打合せに来ていたベテラン舞台監督が、すぐに辞めてしまったほどだ。
新宮さんは自分で舞台監督もするつもりだったが、その道のプロに任せた方が良いことを僕が伝えて、新しい舞台監督がやってきた。
この出会いが私の人生にとって後々大きなものになろうとは、その時には想像もしていなかった。

構想にまつわる凄いエピソードがある。
舞台となる公園の一角に鏡をイメージし、風で動くステンレス製のオブジェを設置することになっていた。その鏡は西の方角を向いている。
ショーは夕方6時半に始まり、夜8時に終了する予定ですべての演出が考えられていた。時間経過と共に夕日が鏡に映り、湖面を照らす計算だ。最後は満天の星空に宇宙人たちが還っていく。
ショーが開催される時期は、梅雨に入る頃で雨の予想もしなくてはならない。雨が降ればショーは野外で行うために当然中止となる。雨が降らなく、時期的には曇っている可能性は高い。

本番まで残り一ヶ月ほどになった頃、打合せで新宮さんに質問した。
「もし曇っていて夕日が出ていない場合は、照明で鏡に光をあてますか?」
新宮さんの回答は実にシンプルだった。
「大丈夫、必ず晴れる!」
返す言葉はもちろん無い。スタッフ全員は本番直前まで天気が心配だったが、新宮さんはまるで気にしていない。

本番当日の2日前は雨、前日は曇りだった。ところ本番当日は朝から晴れわたり、新宮さんの計算通り夕日が風で動く鏡に反射され、その鏡の奥に広がる湖面を夕日が照らしていた。そして夜になると満天の星が夜空を覆い、宇宙船にのってキッピスたちは還っていった。
「新宮さんは、きっと宇宙人だな」と私は心底思った。もちろんスタッフ全員そう思ったに違いない。

 このショーの模様は新聞各紙に取り上げられ、本番の模様はNHK教育テレビで放送された。

それから3年後の秋、今度は野外ではなくホールの中で新宮さんの壮大な世界が繰り広げられる。新宮さんの企画・構成・演出より彩の国さいたま芸術劇場で行われた「星のあやとり~五つの惑星への旅~」と題された公演だ。
これは同劇場の開館三周年記念企画として行われたもので、観客を乗せた宇宙船が、水、風、回転、音、光の5つの惑星を訪ねる旅に出かけるという設定で繰り広げられるスペース・ファンタジーだ。
私も以前同様、音楽スタッフとしてご一緒させていただいた。

題材はもちろんだが、新宮さんの世界の根底にある自然との対話…。それは宇宙につながり、すべての作品において、その場に居合わせた私たちに無限のファンタジーを与えてくれるような気がする。
 新宮さんと仕事をご一緒させていただけたことは、かけがえのない素晴らしい経験でもある。

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